正反対の２つの意味を持つ...「謝」

　「謝(しゃ)」の意味を広辞苑(こうじえん)で調(しら)べると、「わびる、あやまる」「ことわる」「礼(れい)を言う」「別(わか)れ去(さ)る」などとあります。
　「謝」は、「言(げん)」と「射(しゃ)」に分解(ぶんかい)されます。心(こころ)の声(こえ)を口(くち)から出(だ)す意味を表(あらわ)す「言」と、弓矢(ゆみや)を放(はな)つ際(さい)に発(はっ)する音「射」を合(あ)わせてできた文字(もじ)ですが、偏(へん)の「言」は、後(のち)に「ことば」としての意味が失(うしな)われ、「射」音が表す「去(きょ)」（さる＝矢(や)が放たれ去った状態(じょうたい)）の意味が残(のこ)りました。つまり、贈(おく)り物(もの)をされたときに「辞退(じたい)する」（ことわる）というのが本来(ほんらい)の意味でした。現在(げんざい)では、「お礼をする」意味で使われ、「感(かん)謝」「謝礼」などと使います。「謝」は全(まった)く反対(はんたい)の意味を合わせ持(も)つ、ちょっと不思議(ふしぎ)な文字なのです。
（産経国際書会副理事長、髙橋照弘）