軍隊が戻って祖廟に報告する...「帰」

　夏休(なつやす)み。お盆(ぼん)にあわせて帰省(きせい)する人(ひと)も多(おお)いですね。そこで今日(きょう)は「帰」を取(と)り上(あ)げます。
　「帰」の旧字(きゅうじ)は「歸」。「」+「止」+「帚」の会意文字(かいいもじ)です。
　上(うえ)の金文(きんぶん)を見(み)てください。は祭肉(さいにく)、は茅(かや)を束(たば)ねた帚(ほうき)（束茅(そくほう)）です。昔(むかし)は軍(ぐん)が出発(しゅっぱつ)するとき、束茅に酒(さけ)をふりそそぎ、祖廟(そびょう)（先祖(せんぞ)を祭(まつ)る祭壇(さいだん)）を清(きよ)め、祭肉（脤(しん)）を供(そな)え、無事(ぶじ)の帰還(きかん)を祈(いの)って、その祭肉を携(たずさ)えて出発しました。
　事(こと)が終(お)わり、軍が凱旋(がいせん)すると携えた祭肉を再(ふたた)び祖廟に奉(たてまつ)り、帰還を報告(ほうこく)する「帰脤(きしん)の礼(れい)」が行われ、これが「帰」のもとの意味(いみ)でした。のちに一般的(いっぱんてき)な「もどる」「かえる」の意味になったのです。
　「帰」には「女性(じょせい)が嫁(とつ)ぐ」意味もあります。「帚」に女偏(おんなへん)がつく「婦」は、家廟(かびょう)に奉仕(ほうし)する婦人(ふじん)のことで、結婚(けっこん)でその家(いえ)の人になることは、「廟にもどる」ことを意味しました。「帚」に手(て)偏をつけた「掃」も、もとは祭壇を酒で清め神(かみ)を迎(むか)えることで、いずれも廟礼に深(ふか)く関(かか)わる言葉(ことば)でした。
（産経国際書会常務理事、眞田朱燕）